Rion Hiragi/Resercher/Storyteller

〜 No.133要注意!つぶす人は結局自分がつぶされます!・科学史の事件簿〜

皆さまこんにちは。

 

前回、前々回と中世天文学の記事を掲載させて頂きました。

1人はコペルニクスで

もう1人はヨハネス・ケプラーでしたね。

 

今回は時代をずっと前に進めて

20世紀初頭に起きた、ある事件を取り上げたいと思います。

 

舞台はイギリスの天文学会。

ここに、天文学の発展を

40年も遅らせたと言われる事件が発生しました。

そこには、ある偉大な学者の「妬み」が絡んでいたのです。

 

今日のメルマガも長いですからね!

先週同様改行しないで行きます。

読みたい方だけお読み下さい。

 

↓ まずは登場人物の紹介から……

 

 

今回の登場人物は2人います。1人は優秀な弟子を妬んでつぶしたばかりに、晩年その権威を失墜した天文学会の重鎮・アーサー・エディントン。

そしてもう1人はつぶされた方。非常に優秀な弟子で後のノーベル賞受賞者、スブラマニアン・チャンドラセカールです。

 

 

この2人は、ブラックホールにつながる「恒星の終末期」について意見が対立しました。ブラックホールは20世紀最大の発見と言われています。この謎を解明できれば、宇宙の謎さえ解けると言われているからです。

この扉を、80年前に開いた人物がいます。それが若き天才物理学者・チャンドラセカールです。

 

 

でも、権威と常識に逆らう発見は、以前紹介したコペルニクスやガリレオと同じ様に闇に葬られる危険性と表裏一体です。

そしてチャンドラセカールは、エディントンによって闇に葬られた1人でした。

 

 

まずは、それぞれの人生について見てみましょう。

 

 

エディントンは、今は老害のイメージが強いですけれど、彼は彼ですごい人です。彼は2才のときに父親を亡くし、恵まれない子供時代を過ごします。そこから猛勉強してケンブリッジ大学大学院に入り31才で教授になり、翌年には天文台長にもなります。英国王立天文学会のメダルを獲得したり、はてはナイトの称号を叙されるというイギリス天文学会の重鎮でした。

 

 

功績も素晴らしく、核融合が生み出される12年も前に「太陽はガスのかたまりからできていて、そのエネルギーは核融合から生み出されている」と述べています。加えて、アインシュタインの【相対性理論】を世界で初めて観測したのがエディントンなのです。

つまり、20世紀最大の物理学者アインシュタインが、足を向けて寝られないのが、エディントンな訳!

 

 

そんな彼が一生をかけて追求していたのが「星の一生」について。特に「星が死ぬ時どうなるのか」というのがテーマだったんです。当時50才のエディントンは「全ての恒星は白色矮星になり、小さな岩になる」と考えていました。

 

*「白色矮星」とは、恒星が滅びる最後にとりえる形態の1つで、非常に高密度の天体です。例えば、1立方cmの重さが10t以上になります。

 

 

エディントンが書いた『星の内部構造』は世界中でベストセラーとなり、その一冊をむさぼるように読んだのが、インドにいたチャンドラセカールです。

 

 

チャンドラセカールは、インドの上位カースト【バラモン】に生まれます。

数学が得意で、幼い頃から神童と呼ばれました。(ちなみに叔父は、インド人で初めてノーベル賞を受賞した人物です)。チャンドラセカールは、当時最先端だった量子物理学に夢中になり、19才で英国ケンブリッジに留学します。

 

 

そして英国に向かう船の上で、ふと「恒星全部が白色矮星にはならないんじゃないか?」と計算し始めました。そしてあっという間に、エディントンと違う理論を発見してしまったのです。

それは「ある質量を越えた巨大な星は、自らの重力で永遠に潰れ続ける」というものでした。

 

 

イギリス到着後、チャンドラセカールは憧れのエディントンに師事します。

チャンドラセカールはピュアで学問だけを追求していたのですが、エディントンはそうではありませんでした。

年を追うごとに量子力学の計算精度が上がり、自分の理論と対立するチャンドラセカールの論文に大きな危機感を抱き始めたのです。

 

 

もう、嫉妬が発生する条件がそろいすぎているんですね。嫉妬が生まれやすい条件は次の3つ。

 

 

① 同じ分野

② 同性

③ 自分より目下に追い抜かれそうになった時

 

 

今回の場合、特に③に当てはまる点が多々ありました。

チャンドラセカールの方が30才も年下。エディントンが英国天文学会の重鎮なのに、チャンドラセカールはいち研究者。それが世紀の大発見をしようとしている。それからお国柄。インドを植民地にしていた国の初老の男と、支配されていた国からやってきた若者。

 

 

チャンドラセカールの理論が正しければ、エディントンの研究に泥がつきます。ここでエディントンは、チャンドラセカールつぶしのシナリオを描きます。まず、チャンドラセカールに「君の論文は素晴らしい!」とほめて、まだ高価だった計算機を手配し、週に何度もチャンドラセカールの研究室に赴き(偵察のため)、味方のフリをして油断させます。

 

 

そしてつぶしの仕上げ。1934年に正式な理論が完成した段階で、ロンドン王立天文学協会の大会でチャンドラセカールに発表の場を用意したのです。普通の人の倍の時間を用意し、また人が集まりやすい夕方の時間を当てがいました。

 

 

なぜか?

 

 

エディントンはその直後に自分の発表を入れ、大勢の面前で、チャンドラセカールを罵倒して潰したかったからです。

 

 

18時半。

 

 

会場には天文学会のそうそうたるメンバーが顔を揃えていました。そこでチャンドラセカールは「全ての星が白色矮星になる訳ではない。巨大な星は潰れ続け小さな""になる」と発表します。世界で初めて、のちのブラックホールにつながる発表をしたのです。けれど、この理論は当時先駆的すぎました。内容を理解してくれる人は、ほとんどいなかったのです。

 

 

そしてその直後、エディントンが発表します。「チャンドラセカールの理論は実に馬鹿げている!小さな点になるなどありえない。自然の法則は、そんな馬鹿な動きはしない」というと、会場はバカにしたような笑いにつつまれたと言います。当時は、エディントンが右を向けと言えば、全員が右を向く様な雰囲気だったのです。チャンドラセカールの理論はそれ以上議論が深まることはなく、彼は英国の天文学会で孤立していきます。

 

 

そして彼は米国に研究の拠点を移すのです。やっとやっかいな爺さんから離れられたと思って本を出すと、またそこにエディントンが噛み付いてきます。

「これだけ間違った内容が、一冊の本にまとめられたのはいいことだ」とチャンドラセカールをこき下ろしたのです。チャンドラセカールは相当参ったのでしょう。彼は、白色矮星の研究を封印したのです。

 

 

邪魔者が消えたエディントン。晩年も自分の研究に邁進するのですが、その理論にはほころびが見えていました。そのほころびは誰の目から見ても明らかになっていましたが、エディントンはその声に耳を貸さず結局「基本理論」と呼ばれた集大成は完成する事がなかったのです。

 

 

そして、チャンドラセカールに光を当てたのが、一見何の関係もなさそうな「水爆研究」でした。水爆研究のデータを参照していくと、「惑星は永遠と潰れ続ける」ことが証明されたのです。「質量が太陽の30倍を越える恒星は、永遠につぶれ続ける」という、ブラックホール理論の誕生です。

 

 

この発見で、チャンドラセカールは1983年にノーベル物理学賞を受賞します。

時間はかかったけど、時代は何が正しいか証明してくれたのですね。

 

 

エディントンはチャンドラセカールに、共同研究を持ちかけることも出来たはずです。チャンドラセカール自身も「エディントンがブラックホールを受け入れていたら最初にブラックホールを発見したのは彼だったろう」と語っています。そしたら、エディントンだって、ノーベル賞を獲得できていたはず。

 

 

私も拙著『嫉妬する女はブスになる問題』で、「ライバルは潰す存在ではなく、自分の力を伸ばしてくれる最高の味方である」と書かせて頂きました。誰かをつぶせば、その報いは結局自分に返ってきます。自分がつぶしたところで自分の力が伸びる訳ではないし、自分以外にライバルを認めてくれる人が、世の中には数えきれないほどいるからです。

 

 

だから、もし今誰かをつぶそうとしている人がいたら、即刻やめましょう。ライバルがつぶれたなら、それはあなたが将来自滅するという事です。

 

 

逆に、今、有害な人物につぶされている人。あなたの力を見つけてくれる人はたくさんいます。だからあせらず、時を待ちましょう。そしてつぶしてきた相手に反撃するのではなく、自分の力を伸ばすことに力を集中して下さい。

 

 

いくら頭がよくても、人間力がないと結局最後は勝てないのです。

 

 

参照:

NHK BS『フランケンシュタインの誘惑 科学史闇の事件簿』

『ブラックホールを見つけた男』草思社 アーサー・J・ミラー

 

 

 

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編集後記:

 

今週の日曜は、娘が英検を受けに行きます。

ところがその受験会場、最寄り駅から徒歩25分!

しかもバスがほとんどない……

もうちょっと駅近くでやってくれると有り難いんですが...